- DJサチコ
結構ハマってる天邪鬼
ASMRというのをご存知だろうか。
結構前から動画などで話題になってる、聴覚とか視覚で気持ちよくなる奴だ。日本語では自律感覚絶頂反応というものらしい。
咀嚼音とか、紙がカサカサする音とか、粒々のものを握りつぶしたりとか、そういう音を聞いて脳がゾワゾワするのを楽しむもの、と私は認識していたが、生理学的にはどうなのかとか神経科学的にとか、まだ解明されていない部分もある難しいものらしい。
私は正直苦手だ。
もともと音に敏感な方なのか、ヘッドホンやイヤホンの類はあまり音を大きく出来ないし、夜中に部屋の中にGがいることに気づく。アイツらには足音がある。
だから音は日常でも割と気になる方で、静かに過ごす時間が無いとめっちゃ疲れる。
ところで私は最近髪を切った。
今通ってる美容室の美容師さんはとても思い切りの良い人で、私の襟足を躊躇なく刈り落とす。
私のコンプレックスの一つ、襟足の逆毛を躊躇なく。
この襟足の逆毛はショートカットな私にはちょいと厄介なものだ。襟足が浮くし目立つ。
この逆毛について、私には運命を呪うくらいしか対処法がないが、美容師さんには二つの選択肢がある。
一つは襟足を長めに残す。長めだと流石に重力で下に降りる。ちょっと浮くが、まぁ別に変ではない。塩梅を間違えるとヤンキーの子供みたいになる。
もう一つは刈り上げて上から髪の毛を被せる。襟足はスッキリするが失敗するとめっちゃ前衛的な感じになる。
いずれにしても失敗は許されないのがプロの現場だが、無くなってしまうとマジでどうしようもないので私がこれまで出会った美容師さんの多くは前者を選択した。もちろん良い塩梅に切るので私は「ヤンキーの子供みたい」という誹りを受けたことはまだない。
しかし今お世話になっている美容師さんは迷うことなく後者を選択した。
私は情けないことに美容師さんへのオーダーがとてつもなく苦手だ。
そもそも人に何かをお願いするのが下手なので、私の髪をこのようにこうしてあんな感じで切ってくださいなんて伝わった試しがない。
だから大体いつも「しばらく来なくて良いくらいの長さにバッサリいっちゃって下さい」とお伝えしている。
今回も同じようにオーダーしたのだが、大抵の美容師さんが「あー、襟足跳ねやすいんで長めに残しときますね」と言うところを「あー、襟足跳ねやすいんで刈り落としときますね」と言ってきた。
ぶっちゃけ刈り落とすのめっちゃ怖かったので(大丈夫なのか?とかうなじ青くなるの嫌だなとか)止めたくなったが、初対面のお兄さんに後ろを取られながら「それは嫌」という意思表示をするなんて高度なコミュニケーションは無理なので、私が発することが出来たのは
「お兄さん思い切り良いっすね〜」という一言だけだった。
いやしくも喋りというコミュニケーションを生業とする人間の在り方としては甚だ疑問だし、34年も生きてきてその程度のコミュニケーション能力なんて情けなくもある。だがどう足掻こうとこれが私。
その美容室に行くのは2回目となる今回も、私は美容師さんのバリカンを止めることなく襟足をスッキリさせてきたので、今回も襟足からうなじは青々としている。
私は髭が青いと悩む男性にも寄り添える女なのだ。
さて、部屋のGの足音にさえ反応する私が襟足を刈り上げたおかげで得たものがある。
それは意図せず私の耳に入るASMRとでも言おうか。
襟足のチョリチョリ音だ。
私のパジャマが擦れると時々放たれるザリっという音。
ちょっと伸びてきてあまりしなくなってきたので安心しているが、切り立てホヤホヤの時はとても気になった。
でも無くなるとそれはそれで淋しい気がして、手で襟足を撫でてチョリチョリ言わしたりしている。
果たして、3回目に行った時私は彼のバリカンを止めることが出来るのだろうか。