- DJサチコ
彼女はどんぶり勘定だろうか
どんぶり勘定という言葉がある。
お金の支払いに関して細かい計算をせず、大まかにやってしまうことを指す。「大雑把」という批判的なニュアンスで使われるので、言われたらあんまり良い気はしない言葉だ。
ちなみにその語源は、昔の職人が財布がわりに使っていた「どんぶり」と呼ばれる物入れから、無造作にお金を出していたことにあるらしい。
その「どんぶり」とやらを、腰に下げていたっていうものだからこちらとしては「どんぶりを?腰に!?」という気持ちである。
我々現代人としては、どんぶりって言えばあの、卵とじのカツや鶏肉をほかほかのご飯の上にのっけた料理の器、であるからして、それが腰から下がっていたらそりゃ骨盤が歪みますわよ、と想像してしまう。
職人の財布から飯の器へ。
時代の移ろいのダイナミズムがここにある。
ぶっちゃけ飯の器であるどんぶりの方が、より大雑把さを表現できている感はある。
だってどんぶりって財布を使ってたのは職人の方々でしょ?職人って、微妙な違いを手に当たる感覚とか臭いとか、音とか味とかそういうので感じ取ってモノを作ってる人でしょ?
我々が思う「どんぶり勘定」のイメージからはかけ離れている。
「どんぶり勘定」って言ったら、どんぶりまんトリオみたいな人を想像しますもの。てんてんどんどんてんどんどんですもの。
どうでも良いけどどんぶりまんトリオにかまめしどん入ってるのおかしくない?釜じゃん、アイツ。
そんなこんなで「どんぶり勘定」という言葉には、一言物申さずにはいられないな、と食器を洗いながら思った。
私だって皿くらい洗うしどんぶりも洗う。
ちなみに私はこう見えてどんぶり勘定が嫌いな女である。
割り勘するなら1円単位でキチっと分けたい派だった。
しかし、歳を重ね、経験を重ねると、あんまり細々と「〇〇円なので、1人いくら」みたいなことを言うと「うわ面倒くせぇ〜」という空気が流れることが分かってきた。あの空気は「面白いこと言ってやる!」と意気込んで渾身のギャグを披露し、見事にスベった時の空気より鈍く痛みが持続するので出来れば避けたい。
スベった時は鋭い痛みで消えて無くなりたくなるのでそれも避けたいが。
先日、仕事でちょっとした差し入れを準備し、割り勘分のお金を後輩からいただくことがあった。
「キリのいい金額をサクッと言ってくれる大人な先輩」を演出しようとしてうっかり後輩が数十円多めに負担する額を伝えてしまったことをずっと引き摺っている。
何と情けない。しかもその後輩は、私への個人的なプレゼントまで用意してくれてたんだからマジで目も当てられない。
次に会った時、「いや〜実はあの割り勘、ちょっと多く払ってもらっちゃって」と言いながらさりげなくプレゼントのお返しを多めに渡すか。
そんなことしたら、1円単位で計算した時の白けた雰囲気にならないだろうか。
かと言って何も言わなければ「後輩に多めに払わせる先輩」として彼女の心の電話帳にメモされてしまうのでは。
いやいやその後輩は人のことをそんなに悪く思う子ではない。それは分かってる。
だからこそ、嫌われたくないしダサい先輩とも思われたくないし、正直好かれたい。
今の私はこの世界で、「どんぶり勘定」をものすごく肯定的な意味で使える数少ない人間なのだ。